新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、新型コロナウイルス感染者やその接触者を追跡して探し出す、いわゆる「追跡アプリ」(接触通知アプリ)や「追跡システム」の開発・運用が世界中で進んでいます。我が国で運用される日本版追跡アプリ(接触通知アプリ)や大阪コロナ追跡システムとはどんなものなのか?その仕組みや問題点を解説します。
目次
「追跡アプリ」は世界中で活用を検討
新型コロナウイルス感染者やその接触者を追跡して探し出す、いわゆる「追跡アプリ(contact-tracing app)」(接触通知アプリ)や「追跡システム」の開発・運用が世界中で進んでいます。
我が国においても新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を図るため、厚生労働省による日本版「接触確認アプリ」(接触通知アプリ)が6月中旬にリリースされる予定で、接触確認アプリに関する仕様書が内閣官房から公表されています。
また、大阪府が独自にQRコードを用いた「大阪コロナ追跡システム」の運用を開始するなど各都道府県でも独自の取り組みが見られます。
「追跡アプリ」は大きく2種類
世界で導入された「追跡アプリ」をみると大きく「GPS型」「Bluetooth型」の2種類に分かれているようです
GPS型
海外では「追跡アプリ」は、アプリユーザーの移動経路をGPSの位置情報などを使って文字通り「追跡」し、その情報を接触者の把握だけでなく、感染者の隔離や外出管理などにも利用しています。
ロシアでは自宅療養中の軽症感染者は、スマートフォンのアプリを通して位置情報などを市当局に送ることも求められているようです。
韓国やイスラエルなどでは、全地球測位システム(GPS)や携帯電話の基地局データを用いた接触追跡方法を利用しています。これを用いると、「新型コロナ感染者Aさんは、◯日◯時◯分からB地区にあるデパートを訪れ、その後、薬局に立ち寄り、夜はC地区のコーヒーショップで過ごしていた」などという情報が得られます。韓国ではこのような感染者の行動履歴を遡って追跡し、匿名でホームページ上に公開しているのです。
しかし、こうした国による監視となるような方法はかなりの個人情報がスマホから吸い上げられるため警戒は強く、プライバシーの観点から受け入れが困難な国は多いでしょう。ですから、多くの国ではプライバシー保護に配慮しているBluetooth型が検討されています。
Bluetooth型
近距離無線通信技術であるBluetooth(ブルートゥース)を使った通信方法(BLE通信)を使うと、数メートル以内の距離に近づいた端末同士で、通信を行うことができます。つまり、「追跡アプリ」を入れたスマートフォン同士が近づくと、Bluetoothによる通信が行われて、暗号化された仮名の信号をやり取りし、その記録がお互いのスマートフォン内に保存されるのです。従って、「追跡アプリ」を使うことで、会議や食事などで同席した面識がある人だけでなく、電車やエレベーター内で偶然隣り合わせになったなど、面識がなく無意識に接触した人が感染したケースでも、接触記録に基づいて感染リスクに気づくことができます。
この方法では、保存される情報は、接触して通信した相手のスマートフォンの記録だけで、位置情報、ユーザーの名前や電話番号などは含まれず、全地球測位システム(GPS)や携帯電話の基地局データを用いた接触追跡方法と比べてプライバシーは比較的保護されます。
日本版「接触確認アプリ」(接触通知アプリ)とは?
日本版「接触確認アプリ」(接触通知アプリ)は、厚生労働省が6月中旬の提供開始を予定し、開発が進められています。
(追記)6/19~利用できるようになりました。ダウンロードは以下からどうぞ!
元々、国も「追跡アプリ」と言っていましたが、「接触確認アプリ」と呼ぶようになりました。その理由は上記で説明したように韓国などのようにアプリユーザーの移動経路をGPSの位置情報などを使って「追跡」するわけではなく、あくまでBluetoothを用いた「ユーザー同士の接触を確認する」アプリであるからです。これを受け、報道でも「接触通知アプリ」もしくは「濃厚接触者通知アプリ」などと呼んでいます。
接触歴が分かる仕組み
先ほどもご説明したようにBluetoothを使った通信方法(BLE通信)で、おおむね1m以内の距離に継続して15分以上近づいた端末同士で通信を行い、端末ごとに固有の識別子と日付情報が接触者情報としてお互いのスマートフォン内に保存されます。また、端末に保存している接触者情報は一定期間で削除されます。
もし、このアプリのユーザーが新型コロナウイルス感染が確認された場合、ユーザーは保健所の指導のもと、保健所などから新型コロナ陽性者に発行される処理番号をアプリに入力することで感染者情報を登録するサーバーに送信する仕組みになっています。
アプリを入れているすべての端末は、サーバーから感染者情報を取得し、自身の接触者情報と照らし合わせ、感染者と接触者が一致すると、接触者のスマートフォンに接触歴の通知が送られ、濃厚接触者である可能性が分かるという仕組みです。
Bluetooth型アプリの問題点
実効性を持たせるには大半の人々が利用する必要がある
このアプリは、
①アプリのユーザーの中から感染者が発見されて
②その人がアプリに感染した旨の情報を登録し
③その人と接触した記録のある他のアプリユーザーが通知を受け取る
という3つの条件が揃って初めて有効に機能します。つまり、少しでも多くの国民が使うことが重要となります。
既にBluetooth型接触通知アプリを用いているシンガポールでは、感染者のうちアプリをダウンロードしていたのは約5分の1に過ぎなかったという報道があります。ハイテクに強く、政府への信頼感も強いシンガポールでさえ、こんな状況ですので、マイナンバーカードですら浸透していない日本ではアプリのダウンロード率は悲惨なことになりそうです…
オーストラリア政府は、いわゆる追跡アプリの利用を義務化する可能性を示していますが、日本では困難でしょう。また、この技術を提供しているアップルとグーグルもアプリダウンロードの強制は支持しないとしているようです。
(こんな政策は絶対無理なのであくまで冗談ですが)「接触確認アプリ」をダウンロードした人には定額給付金を追加で5万円給付しますよ!スマホ持ってない方はスマホ購入費用3万円補助しますよ!だからダウンロードしてくださいとかしないと日本ではこういうアプリはほとんどダウンロードすらされないのではないでしょうか…
バッテリーの問題
シンガポールの追跡アプリ「TraceTogether(トレース・トゥギャザー)は、アップルのiPhoneでバックグラウンドで作動しないことに、大きな不満の声が上がっているそうです。つまり、常にアプリを開けておく必要があり、かなりの電力を消費するからです。日本で導入が予定されている日本版「接触確認アプリ」(接触通知アプリ)はバックグラウンドで作動すること、BLE通信は低電力消費と言われておりバッテリーの心配も少なくて済みそうです。しかし、少ないと言ってもバッテリーを消費することは間違いなく問題点となるでしょう
大阪コロナ追跡システムとは?
大阪府は、5月29日から飲食店以外の施設、6月1日から全対象施設で新型コロナウイルス感染拡大防止のため「大阪コロナ追跡システム」の運用を開始します。
この「大阪コロナ追跡システム」は、いわゆる追跡アプリとは大きく異なります。このシステムでは、そもそもアプリを使いません。不特定多数の人が集まる施設、店舗およびイベントを対象とし、施設や店舗・イベント主催者がQRコードを発行し、そのQRコードを目立つ場所に掲示して参加者や利用客に読み取ってもらう仕組みです。
参加者や利用客側はQRコードを読み込み、メールアドレスを入力する必要があります。また、利用するイベントや施設ごとにQRコードを読み込み、メールアドレスを登録する必要があります。メールアドレスは大阪府が管理し、登録から2カ月後に消去するとのことです。USJでも営業再開を機に導入するようです。
これにより、大阪府はイベント参加者やお店の利用客の名簿リストを管理できるため、そのイベントから感染者が発生した場合、大阪府からメールで連絡を受け取ることが可能となります。
アプリも、GPSなどの位置情報も使わず、QRコードで連絡先となるメールアドレスを登録するだけですから、「追跡」や「接触通知」というよりは「名簿管理システム」の方がしっくりくるかもしれません。
接触歴が分かる仕組み
自治体が収集する情報はメールアドレスと訪問した施設、訪問日時の3つだけですが、特定の施設を感染者が訪れていたことが疫学調査などで判明した場合は、訪問日時や感染者の発症日を基に、感染リスクが高い状態で濃厚接触した可能性がある人を判定し、該当者にメールで知らせます。
QRコード式の問題点
特定の施設でしか接触を把握できない
QRコード方式は、施設や店舗に張り出したQRコードを利用して来訪者を把握するため、特定施設でしか濃厚接触を把握できません。つまり、その施設の行き帰りに寄った場所で感染者と接触した場合はわかりません。
システムの利用やメールアドレスの入力は任意である
イベントや会議の主催者がQRコードを発行するかはあくまで任意であるという点です。また、主催者側がQRコードを掲示していても利用者が有効なメールアドレスを入力しなければシステムは有効に使えないことになります。
それにしてもメールアドレスをいちいち入力するのは面倒ですね…QRコードを読み取り空メールを送るだけで登録できればひと手間省けるのですが…
出来るだけ利用しようという気持ちになれるように大阪府では「コロナ追跡システム」利用者にポイントを付与して、ポイントが貯まれば特典と交換するシステムも考えているようです。
行政が個人情報を管理する
QRコードを通じて集めたイベント参加者のメールアドレス(個人情報)は大阪府が管理することになります。先日愛知県で新型コロナ感染者の名簿が流出したことが記憶に新しいです…府が個人情報を管理するサーバーのセキュリティも重要となります。
QRコード式は他の地方自治体でも採用
このように新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、感染者と濃厚接触した可能性を市民に通知するシステムを地方自治体が独自に導入する動きが広がっています。ご紹介した大阪府の他にも、宮城県、岐阜県、京都市も相次いで導入あるいは導入予定です。
宮城県「みやぎお知らせコロナアプリ」(MICA)
岐阜県「岐阜県感染警戒QRシステム」
京都市「京都市新型コロナあんしん追跡サービス」
これらの自治体に共通するのはいずれもQRコードを採用したことで、短期の導入に成功し、大阪府の場合で開発費は80万円と導入コストもおおむね安いことです。
また、神奈川県では「LINE」の仕組みを利用した「LINEコロナお知らせシステム」を導入する動きがあります。
政府のBluetoothを使ったシステムの準備は地方自治体に先行して2020年4月から進めていますが、後から準備を始めた地方自治体のこれらのシステムの方が早く導入されました。
QRコード式は安く、短期で導入できるため地方自治体ではどんどん導入しているようです。
どちらにせよどれだけ多くの国民がシステムを利用するかが問題
ここまで日本版「追跡アプリ」(接触通知アプリ)や「大阪コロナ追跡システム」についてご説明してきました。皆さんお分かりのようにどちらのシステムもできるだけ多くの国民に利用してもらわないと意味がないシステムになります。政府や地方自治体がどのように国民に説明し利用してもらうかが大きな問題となりそうです。
最後に
日本版「追跡アプリ」(接触通知アプリ)や「大阪コロナ追跡システム」の仕組みや問題点を解説しました。日本のシステムはプライバシーやセキュリティ面で配慮された仕組みとなっており、位置情報をとる仕組みではないため、少しでも多くの国民がが使うことが重要であることをご説明しました。新型コロナウイルス感染再拡大時に有効利用できるのか、無用の長物になるか注目していきたいと思います。