3万円/月でANA国内線に月4回乗れる航空券サブスクの実証実験が行われています。現在は使い勝手も疑問符が付きますし、何より対象は「ADDress(アドレス)」の加入者に限られます。今後は対象者が広がっていくのでしょうか?ANAが航空券定額制サービス実証実験を始めた背景を探り、今後の展開を考察します。
目次
『デュアラー(二拠点生活)』が注目されている?
リクルートホールディングスの「2019年のトレンド予測」では、「デュアラー」がトレンドになると紹介されています。
デュアラーとは、「都心と田舎の2つの生活=デュアルライフ(二拠点生活)を実践・楽しむ人」のことです。富裕層やリタイア組が別荘などで楽しむものとされてきた二拠点生活(デュアルライフ)は、空き家やシェアハウスの活用などによってハードルが下がり、より多くの人が楽しむ時代になっていくと言われています。
『デュアラー(二拠点生活)』に憧れるが問題点が…
僕は大阪に生まれ育ちました。特に中学生からは大阪市内に住み、とても便利で快適な暮らしをしています。結婚した後は、家内の実家がある宮崎にしばしば行くようになりました。そこには都会には今はない人との繋がり、自然との暮らし、地域の文化があります。子供が幼稚園に行くまでは2カ月に1回は宮崎に行き、宮崎の暮らしもいいなと思うようになりました。
何年後になるか分かりませんが、子供が独立すれば、平日は週4日程度大阪で働き、週末は宮崎で過ごすという生活ができないかと考えています。そうなると問題になるのは二重生活の家賃と移動費だと思っていました。
そんな中2020年に入りそういった問題が解決されるのではないかというニュースを目にしました。ANAが「航空券サブスクリプション(定額制)サービス」の実証実験を開始したというものです。
航空券サブスクリプションサービス(航空券定額制)実証実験の背景
地方の過疎化が進むなか、航空業界でもローカル路線を維持していけるのかという課題があります。地方に住む人口が減ると、当然旅客も減少するため、航空会社が運航するローカル路線の便数を減らさざるを得なくなります。減便で不便になった結果、若者が流出してさらに過疎化が進む負の循環に陥ってしまいます。
色々な問題があり、地方への定住人口を増やすのは簡単ではありません。しかし、その地域を訪れる「交流人口」や「関係人口」を増やすことは「定住人口」を増やすよりは可能性が高いでしょう。
最近リモートワークなどの新しい働き方が広がり、場所に縛られないライフスタイルの可能性が注目されつつあります。旅するように様々な地域で暮らす「多拠点生活」を売りにする「ADDress(アドレス)」の利用者はたくさんの拠点を自由に移動しますが、移動費がネックとなります。そこで、ANAはアドレスと提携して、航空券サブスクリプションサービス(航空券定額制)の実証実験を行うことにしたようです。
つまり、残念ながら今回の航空券サブスクリプションサービス(航空券定額制)実証実験の対象は「ADDress(アドレス)」の加入者に限られます。
「ADDress(アドレス)」とは?
「ADDress(アドレス)」は、一言で言えば「定額制で全国の提携拠点に住み放題のサービス」となります。
音楽や飲食、ファッションなど幅広いジャンルで定着しつつある定額制サービス「サブスクサブスクリプション」の住居版と言えます。
ADDress会員になり毎月定額(4万円以上/月)を支払ったら、全国各地にある家(提携拠点)を自由に住み替えることができるというものです。
ADDressの拠点となる「家」は個室を確保しつつも、シェアハウスのようにリビングやキッチンなどは共有となります。費用には電気代やガス料金、水道代、ネット回線料金が含まれており、敷金・礼金・保証金などの初期費用も必要ないとのことです。
また、家族(二親等以内)・固定のパートナー1名などの同伴者は追加費用なしで個室利用OKとなっており、家族での利用も可能です。
人見知りの私は個人的にはシェアハウス形式にはちょっと抵抗がありますが、2020年6月からはホテル・旅館などと連携し、宿泊施設を「会員専有個室」とする月額定額制プランでの提供を開始するようです。
例えば「変なホテル東京 赤坂」洋室 ダブルルームが月額115,000円(税別)で利用できるようです。
ADDressが航空券サブスクのパートナーに選ばれた理由
今回サービスが開始となったホテルの月額プランを除き、各拠点の個室を利用するには予約が必要となります。1つの個室の連続予約は1週間までで、1度にできる予約の上限日数は14日間となっています。
このように「1か所に長く住む」というより「たくさんの拠点を自由に移動できる」という多拠点性が「ADDress」の特徴となっています。
1か所に留まらない多拠点性が売りということは、利用者は別途交通手段を手配する必要があるわけです。以前は利用者の大半がコストを意識してLCCや鉄道、バスなどを利用していたようです。移動費も定額にできれば、多拠点居住のネックを減らすことができるということで、ANAと提携し、航空券サブスクリプションサービス(航空券定額制)の実証実験が始まったようです。
つまり、今回の実験は「自由に住み替えられる」住居のサブスクとその拠点間の移動の「足」となる航空券のサブスクをセットにした複合型サブスクの実験と言えそうです。
ANA航空券定額制サービスの内容
2020年1月から実証実験を開始していた
ANAHD(ANAホールディングス)とアドレスは2020年1月に月額制で指定便に搭乗できる「航空券サブスクリプション(定額制)サービス」の実証実験を開始することを発表しました。
月額3万円を支払うことでANA国内線の指定便に月2往復搭乗できるという内容でしたが、当初は羽田発着の新千歳(札幌)/鳥取/高松/徳島/福岡/大分/熊本/宮崎/鹿児島線のみとなっていました。
当初は予約可能な対象便も少なかったです
2020年4月からは大阪発着も対象に
4月から実証実験を路線を拡充して実施しました。3か月契約の月額3万円プラン、2か月契約の月額3万5000円プラン、1か月契約の月額4万円プランの3つの料金プランを用意し、ANA国内線の指定便を片道月4回まで利用できるようになりました。大阪(伊丹)空港発着便が対象となった他、旭川・新潟・岡山・佐賀も対象となりました。
2020年6月からのANA航空券定額制サービスの内容は?
ANA定額制国内航空券は対象空港を追加して第3弾を実施することが発表されました。
ポイントは
・追加料金を支払うことで、全日本空輸(ANA)の国内線指定便を片道月4回分利用できる
・新たに仙台、名古屋(中部)、広島、松山、高知、那覇の6空港も対象となる。
・追加料金は、3ヶ月契約で月額30,000円、2ヶ月契約で月額35,000円、1ヶ月契約で月額40,000円
・毎月50人限定で、応募が多数の場合は抽選
・予約は搭乗日の22日前までとし、次月への繰り越しは原則禁止
というあたりでしょうか。
2020年7月以降の航空券サブスクリプションサービス(航空券定額制)実証実験の詳しい内容をチェックしていきましょう
実施内容
募集開始 : 2020年6月5日
利用開始 : 2020年7月1日
対象空港 : 羽田/新千歳/旭川/★仙台/新潟/★中部国際/伊丹/岡山/★広島/鳥取/高松/徳島/★松山/★高知/福岡/佐賀/大分/熊本/宮崎/鹿児島/★那覇
*上記のANAが指定した便に限る。「★」は新規の利用可能空港
対象人数 : 毎月50人(応募多数の場合は抽選)
利用回数 : 月毎に最大片道4回分まで搭乗可能
利用条件 : 月額3万円(契約期間3か月)、月額3万5千円(契約期間2か月)、月額4万円(契約期間1か月)
対象利用者: ADDress会員
申込方法 : ADDress会員向けの専用サイトより予約
申し込み条件とルール
・ADDress会員(登録された同伴者利用者含む)およびANAマイレージクラブ会員であること
・ADDress会員および、事前に登録された同伴者も申込対象となるが、同伴者のみの申込は不可(会員本人の申込が必須)
・同伴者については満3歳以上が対象(満3歳未満は大人1名に対して1名まで大人の膝の上に座る場合」無料)
・申し込み期間は6月5日から8月5日まで
・8月7日~16日、9月19日~22日の便は予約不可
・出発の22日前までにANAHDの事務局へWEB連絡
・天候不良などでノーチャージ払戻となった場合、その分の権利は返還。
・手配後の変更や取消は不可(搭乗権の返還はなし)
・利用便の要望は不可(表の中から事務局が便を指定)
・対象便に空きが無い場合は前後の便で手配
・希望日程に手配できない場合もあり
・申し込みしている月で4便を消化しなかった場合は原則延長なし
・予約便が天候不良等などにより欠航の場合のみ、当該予約分を翌月へ繰越可能
・次月分を当月に前倒しての利用は不可
・基本的にマイル積算率は50%
対象となる便は以下の通りです
まぁ定額制でリーズナブルなわけですし、実証実験なので仕方がないとはいえ、制約が多くて、利便性には疑問符をつけざるを得ない内容です。少なくとも希望日程で手配できないケースがあるということで、週に何日か都会で働いて、週末は地方で過ごすという仕事の予定がかっちりと決まっている状況での二拠点生活に使うにはかなり難しい内容ですね…
航空券サブスクリプションの今後は?個人的予想
今回ご説明したようにANAの航空券定額制サービス実証実験は現時点ではADDress会員のみが対象となっています。今後対象が広がっていく可能性はあるのでしょうか?
航空会社がサブスクを行う背景を考える
今回の航空券定額制実証実験の背景としては、先ほども述べたように将来人口減少に伴い先細りが懸念される国内線の需要を維持していくためには、航空会社にとっても都会と地方の人の流動性を高めていくことが有効な手段のひとつとの考えがあるからです。
つまり、都会に住む人が地方へ移住することはハードルは高いけど、旅行よりも少し長い期間地域に滞在してもらうことで人の流動性を高め、地方に関わる人を増やすことで地方路線の需要を維持したいわけです。一言で言うと、「関係人口」を増やすことで航空機需要を増やしたいということです。
新型コロナウイルス感染をきっかけにテレワークが進む?
今回の新型コロナウイルス感染によりテレワークを導入する企業の拡大も予想され、今以上に多拠点生活を実行しやすい環境が整う可能性は高いです。テレワークを導入する企業が拡大すれば、ひょっとしたら月に数日だけテレワークでできない最低限の仕事だけ行うために東京の本社に出勤して、他の日は地方で過ごすといった働き方も増えるかもしれません。企業が航空会社と提携して二拠点生活を後押しする可能性も考えられます。
MaaSは航空券サブスクと親和性あり?
今後日本でも複数の交通機関を一括して利用・決済するMaaS(Mobility as a Service=マース)が広がっていくことが予想され、今よりももっと移動コストが安くなる可能性があります。
MaaSについての詳細は以下のリンクをご参照下さい
タクシーも事前確定運賃導入によりMaaSに組み入れられる可能性があります
MaaSが広がると、地方までの足は航空券サブスク、地方空港から拠点までの足は公共交通機関(タクシー・バス・鉄道)やカーシェアというように月額定額制で様々な交通手段を提供するサービスの一部として航空券サブスクが組み込まれる可能性も考えられます。
地域活性化が見込めるなら自治体が航空券サブスクを後押しする可能性も?
地方の過疎化に悩んでいるのは航空会社だけでなく、もちろん地方自治体も同じです。繰り返しますが地方への人の移動の最大のネックは交通費となります。航空券のサブスクなどを利用し移動コストを下げることで、人々が移動しやすい仕組みを構築でき、地域の関係人口が増え、地域が活性化していくなら、地方自治体も人を地方に呼ぶ手段の一つとして航空券サブスクに補助金を出す可能性もあるでしょう。
地方自治体にとっては関係人口が増え地域の活性化が見込める、航空会社にとっては空いている座席を有効利用できる可能性があります。あくまで個人的な考えですが、地方自治体、航空会社の利害が一致すれば、採算が厳しい路線の航空券のサブスク導入は今後あり得るのではないかと思っています。当然平日限定、便限定など制限はかかるとは思いますが…
航空券サブスクに価値を見出す他業種との連携が必要か?
いずれにしても航空会社が空席を埋めたいという目的だけで導入しちゃうと航空券サブスクは定着せずうまくいかないでしょう。強力な顧客基盤を持っているANAなど航空会社が中心となって航空券サブスクというサービスを構築し、地方自治体や地方の企業・団体など航空券サブスクというサービスの価値を生かすことができる他業種と連携することで、持続的なサービスとして定着する可能性が出てくるのではないかと思います。